脆弱性-ストレスモデル〜“もろさ”にいくつかの因子が重なって発症するという考え方〜
ここでは、代表的な仮説の1つである「脆弱性(ぜいじゃくせい)-ストレスモデル」1)を紹介します。
同モデルは、統合失調症になりやすい“もろさ”(脆弱性)があるところに、さまざまなストレスが加わることが発症の引き金となるという考え方です1)。
この“もろさ”にかかわるのは、遺伝や脳の変調などです1-3)。
遺伝2, 3)
統合失調症では遺伝的な要素があると考えられていますが、あくまでも原因のうちの1つに過ぎません。たとえば全く同じ遺伝子をもった一卵性双生児が2人とも発症するわけではなく、その割合は50%程度です。もし遺伝的な要因で病気になるのであれば、一卵性双生児なら100%になるはずですが、そうではありません。また、統合失調症の患者さんの家族を調べても、両親のどちらかが統合失調症の場合の発症率は約10%です。
遺伝は発症の要因にかかわっていますが、限定的なものです。
脳の変調1, 3)
神経の発達プロセスが統合失調症の発症に影響を与えているのではないかとされています。
以前から、お腹の中にいるとき(胎児期)のウイルス感染や栄養不良などで脳の機能的な障害が生じ、成長期の神経系の発達や成熟に影響を与えてしまった場合に、発症の原因になるのではないかと考えられていました。最近は、胎児期とは関係なく、脳が成熟するプロセスでの異常が発症につながる可能性もあるといわれています。
妊娠期や周産期の障害があったからといって必ず発症するわけではありません。
ストレス対処能力もポイントになる2-5)
ご紹介したような “もろさ”の要素に、社会生活のストレスや重大なライフイベントなどにより強いストレスにさらされると、統合失調症を発症しやすくなる――これが「脆弱性-ストレスモデル」です。
しかし、ストレスがかかれば必ず発症するかといえばそうではなく、ストレスを上手に対処できる人は発症しにくいのです。ストレス対処能力を鍛える治療・訓練もあります。
脆弱性 - ストレスモデルの図解
「水=ストレス」、「容器=心の器(ストレスをためられる量)」、「蛇口=ストレス対処能力」とすると…

国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部:
訪問支援で使える統合失調症情報提供ガイド(家族心理教育編), 2019, p. 10
落合慈之監修, 秋山剛ほか編: 精神神経疾患ビジュアルブック. 学研メディカル秀潤社, 東京, 2015, pp. 180-188より作成
- 参考文献
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- 尾崎紀夫ほか編: 標準精神医学 第8版. 医学書院, 東京, 2021, pp. 281-282
- 丹羽真一編: インフォームドコンセントのための図説シリーズ 統合失調症. 医薬ジャーナル社, 大阪, 2014, p. 14
- 白石弘巳監修: 患者のための最新医学 統合失調症 正しい理解とケア. 高橋書店, 東京, 2015, pp. 52-55
- 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部: 訪問支援で使える統合失調症情報提供ガイド(家族心理教育編). 2019, p. 10
- 落合慈之監修, 秋山剛ほか編: 精神神経疾患ビジュアルブック. 学研メディカル秀潤社, 東京, 2015, pp. 180-188